シュタイナー教育の提唱者、ルドルフ・シュタイナーの人間観では、人は7年ごとに成長し、それぞれの発達課題があると考えます。
シュタイナー教育は、その人間観にもとづき、年齢にふさわしい環境や学びの課題を通して、自分で考え、判断し、行動できる人間を育てる教育方法です。それは、子どもたちたが「生きる力」を身につけて、自分の夢を自らの力で叶える喜びのある人生を歩むことにもつながります。
成人までの7年ごとの成長は、以下のように考えられています。
●からだ
日々の生活や自由な空間で存分に遊ぶことを通して、自分自身の器となるからだを作る。
●意志を育てる
その子自身の行為を通して、生きていく力を育てる。
●模倣と手本
信頼する人の存在全て(手本)を自分の中に取り入れ、自らの身体を通して同じように表現する。(模倣)
●こころ
学びを通して、外なる世界の美しさや不思議さと出会い、驚いたり感動したりすることによって、心が育まれる。
●感情を育てる
友だちとの出会いや集団生活を通して、共感反感、喜び悲しみなどの心の動きを体験し、豊かな感情を育てる。
●ふさわしい権威
こうありたいと思える姿と出会う。
●あたま
世界との関わりの中で、自分がその一員であることを理解し、この世界とどのように関わるかを見出そうとする。
●思考を育てる
より理論的な考えや判断が備わり、外の世界と意識的に関わることによって、知識を認識にする思考を育てる。
●理想
自己を探求し、真理を求める。
からだとこころとあたまがバランスよく働き合って、「私」が自分の人生を歩いていきます。
7年ごとの成長は21歳以降も続き、一生にわたって成長課題があります。
誕生から7歳までの「第一 7年期」が、シュタイナー幼児教育の期間です。
赤ちゃんは全身を感覚器官にして、自分の周囲の世界を自らの中に吸収しています。そして自分を愛し、養ってくれる身近な存在にすべてを委ね、応えてもらうことによって初めての信頼関係を育てます。
赤ちゃんは、この信頼できる人の存在すべてを模倣して3歳までに、歩くこと、話すこと、考えることを身につけます。この 3つは人として生きていくための大事な力です。
人間は身体的には未完のまま生まれてきます。けれども 1 歳の誕生日を迎える頃には体重は約3倍に増え、身長は約1.5倍伸びます。一生のうちでこれほど身体が成長する時はありません。
これは目に見える育ちだけではなく、内臓器官も作られていく時期です。
また、生まれた時には、本人の意志と関わらずに動いていた手足が、何かをつかんだり、歩いたり、遊んだりする日々の動きを通して、7歳頃には自分で意志を持って身体を動かすことができるようになります。自分で自分の身体をコントロールする力が備わり、身体の自由を手にするのです。
「教育の一番初めの課題は“正しい呼吸”と“眠りと目覚めのリズム”を育てること”である」と、ルドルフ・シュタイナーは教師たちに語っています。
生まれたばかりの赤ちゃんは、自力で呼吸をしますが、それはまだ全身と結びついた調和的な呼吸ではないと言えます。子どもの生活が、外に出ることと内に入ることのゆったりとした繰り返しで構成される時、この呼吸が整えられるのです。例えば、子どもはまだ自分で「ひと休み」をすることがなく、外出から帰るとすぐにおもちゃを出して遊び始めますが、この時にお母さんが「おやつを食べましょう」と座って落ち着く時間を持ってあげることによって、外から内へと収まっていくことができます。
また、生まれたばかりの赤ちゃんは一日の殆どを眠って過ごしますが、成長と共に目覚めている時間が増え、お昼寝を必要とする時期を経て7歳までには、昼は目覚めて夜に眠るという生活のリズムが整います。このように赤ちゃんを育てているお母さんは、授乳時間と眠りと目覚めの時間を中心に子どもの生活リズムを作ります。
このようにシュタイナー幼児教育では、子どもの健康な身体を育てるために、生活の中での”呼吸“と”眠りと目覚め“のリズムをとても大事にしています。シュタイナー園はその生活を実践する場となっています。
この時期は眠ることと同じように、食べるものも母乳またはミルクから離乳食そして普通食へと広がり、何でも食べられるようになります。また衣服においてもおむつからパンツになり、自分で着脱ができるようになります。
この時期の子どもたちは日々の生活の中で、自分で生きる基本的な力を着々と身につけていきます。2歳頃にみられる「自分でやりたい」「でもできない」といった混沌とした時期を通り過ぎて、自分で「パンツがはける」「ボタンがはめられる」「紐が結べる」という体験は子どもの喜びとなり、すべてが自信につながります。
「自分でやりたい」という子どもの気持ちを大切に受け止める大人の傍らで、自分の身体を通して行為することを自分自身で積み重ねていく時期です。
意志の力は、忍耐強く続けていく力でもあります。それは朝の支度の手順や食後の歯みがき、おはようの挨拶など、日々の暮らしの中で淡々と繰り返される生活習慣を身につけていく中で育てられます。幼い子どもにとっては、決められた手順が毎日必ず同じように行われることで、身体が覚えてできるようになり、安心して生活することにつながります。
日々同じように繰り返される生活は幼い子どもに安心感を育てます。
7歳までの子どもにとって、遊ぶことは、外の世界を知り、関わりを深めるために欠かせない時間です。遊ぶことによって、身体を動かし、身体を育てます。そこには一緒に遊ぶ友だちとの出会いもあります。嬉しいことも、時には悲しいこともありますが、それを乗り越えた先に大きな喜びがあることを、友だちと一緒に遊ぶ関りの中で知ることができます。
この時期の子どもにとっては、どんなおもちゃに触れて遊ぶかということもとても大事なことです。子どもが公園で拾う木の実や木の枝、石ころ、台所にあるお鍋やおたまなど、身近にあるものがなんでもおもちゃになるのです。
子どもは、感覚を通して周囲の世界を自分の内側に吸収します。この感覚体験はをその後の人生の判断基準となり、何が真実であるかを感じ取る力となります。そのため、この時期に一番多くの子どもが触れるおもちゃについては、自然素材のものがふさわしいと言えます。
できるだけ装飾がなく必要以上に作り込まれていないシンプルなおもちゃは、子ども自身の想像力を働かせることによって、何にでもなる可能性を持つことができます。木片が電車になったり、コップになったりします。木の実がごちそうになったりすることもあります。このように子どもの想像力や創造性が育ちます。
ルドルフ・シュタイナー Rudolf Steiner (1861-1925)
オーストリア領ハンガリーに誕生 思想家・哲学者
ウィーン工科大学にて自然科学を学んだのち、ゲーテの研究などを経て、人智学(アントロポゾフィー)を確立した人物がシュタイナーです。人智学とは、人間は宇宙や自然との関りの中にあり、世界は目に見えるものと見えないもので成り立っていると考えます。この哲学は、没後100年近く経つ現在でも、教育だけではなく、農業・医学・薬学・建築・社会学・自然科学など多岐にわたる分野が世界中で実践され続けています。